微睡日記抄 その2
8月の雨。The rain in August. これは、ボクの話ではない。彼女は彼と、その道をストラトフォードに向かっていた。雨は、頻(シキ)りに、車を打ち、時に激しく、時に穏やかに降っていた。オックスフォードを越えて刈り入れの済んだ麦畑の田舎道を進むと、落ち着いた石造りのバーフォードの街並みが姿を現して、二人...
イエスの困惑 perplex(puzzle on Jesus)
日本では、キリスト教の聖遺物というのは、余り知られていない。イエス生誕の時、祝福のため、オリエントから来訪した3博士の遺体が、ドイツのケルンにある大聖堂に安置されていることなど、日本人が知ろうはずもない。況(マ)して、ナザレにあった聖母マリアの生家が、イタリアのレカナーティという片田舎に現存し、天...
幸運の輪[Wheel of Fortune];煉獄への誘い その6
Apocalypsis Opera(喜劇の黙示録)。 廃墟に、雨が降る。雨は、強く、弱く、降り続ける。そこには、以前、アジサイ(紫陽花hydrangea, 花言葉;無情heartlessness )の花咲く小都市の町があった。人影も疎(マバ)らな、静かな佇(タタズ)まいの、穏やかな街並みが続く山裾(スソ)近くの町。何の変哲もない、長閑...
ショートコラムの憂鬱 2020 part 3
愛という名のもとに。 最近、禅について、見聞きしたり、書くこともあり、ちょっと疑問に思ったのだが、禅は、何故か、愛、という語を使わない。ただ、繋がり、という言葉を使い、connectと、英訳する。これが多分、愛、に準ずる言葉だろうと、思う。しかし、愛、とは、形式ではない。そのような分類的表現がふさわし...
幸運の輪[Wheel of Fortune];煉獄への誘い その5
愛は、重要である。何を以って、愛amourと呼ぶのか、それは知る由もないが、それは、重要である。 ホーム。不釣り合いな光景に出くわすこともある、不釣り合いな空間。 しかし、そこは終着駅という、人生の運命的帰着に相応(フサワ)しい施設であるといえる。何故なら、人生とは、必然的偶然の積み重ねに他ならな...
幸運の輪[Wheel of Fortune];煉獄への誘い その4
 蝶たちは、海を渡る。飛翔し、乱舞し、群れながら、海上の空を行く。そこには、蝶たちにしか、知り得ない見えない航路がある。大空が魅惑する魔性の、秘密の通路(ミチ)が。 夏は、差し当たって、炎暑である。地球上の、半分は、つまり、北半球は著しい渇水状態となっており、水が、液体が、喉(ノド)を潤すそれ...
手塚治虫 本末天道虫 その2 我と共に来たり、我と共に滅ぶべし
1947年、春、放課後の教室の窓際で、男は、心ここに在らず、といった有り様で、桜の花の散る様をニンマリと眺めている。本当は、笑いが止まらないのである。1月に発売になったデビュー長編「新宝島」が好評で、重版増刷が決まったのだ(これは、最終的に、40万部の大ヒットとなる)。学生にして職業漫画家。夢は妄想とな...
手塚治虫 本末天道虫 その1 我と共に来たり、我と共に滅ぶべし
1946年、春、桜の花の舞散る、阪大予科に隣接するYMCAホールの小部屋から、モーツァルトのトルコ行進曲のピアノの音が軽やかに流れていた。そこでピアノを弾いているのは、日本人の小柄なメガネをかけた男子学生であり、すぐ横には大柄の黒人のソルジャーが腰かけて、楽しげに聴いているのだった。ピアノの演奏が終わる...
三島、自滅 病葉(ワクラバ)の回廊
現身(ウツソミ)はあらはさずとも、せめてみ霊(タマ)の耳をすまして、お前の父親の目に伝はる、おん涙の余瀝(ヨレキ)の忍び音(ネ)をきくがよい (三島由紀夫「朱雀家の滅亡」) 往年の老優、中村伸郎(1908.9.14.-1991.7.5.)は、この特異な才能の持ち主の陳腐な最期について比較的冷静に、淡々と述懐して...
You need me, perhaps, or I need you chapter 4
猫も杓子(シャクシ)も。 猫が強(シタタ)かで、容易ならぬ生き物であることは、前章でも証明済みである。この、屈強で柔軟な生き方がどうして、猫の身についたのか、というような、史的なあらましについて、少しく考えてみようと思う。 そこで、ここは、時間をちょっと遡って、古代日本にタイムスリップすると...
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