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秋月の世(夜)の耽(フケ;更け)るまま,邂逅の断片たちは,遠ざかっていく。雛菊(daisy;花言葉;平和・希望)の咲き乱れる秋の野に血腥(ナマグサ)い,殺戮者の剣が突き刺さる。
詩人が覚束(オボツカ)ない足取りのまま,月明かりの夜に外に出ると,遠い日々の彼方から,嗚咽(オエツ)する人々の声が聞こえてくる。火焔の中を逃げ惑(マド)い,見捨てられ,死んでいくしかなかったその時代の若者たちの亡霊が現代の都市を闊歩(カッポ)する。死霊たちは,壊滅した都市に潜(ヒソ)み,棲息(セイソク)し,甦(ヨミガエ)る時を待っていたのだ。彼らは,次の時代に,自分たちの失った愛や自由を,青春を取り戻すべく,時が来るのを待っていた。多様性を謳(ウタ)い,分断され,疎外される一方,画一的で平準化された21世紀へと漂着した亡霊たちは今,又,最終戦争の予感に満ちた時代を嘲笑(アザワラ)うかのように,一日一日をゲーム感覚で過ごしている。もし,残留思念が存在するならば。詩人は眼に涙を浮かべ,亡霊たちの未来が再び,同じ結末を迎えないよう祈るしかないと,自分自身の行く末を呪った。
権力者たちは地球を人質に取り,自分たちのマインド・ゲームに夢中だ。彼らは,一触即発の大惨事の鍵を握る。彼らは一見理知的に見えるが,実際は何処にでもいる凡人に過ぎない。つまり,彼らは,聖人でも賢者ですらなく,嫉妬や虚無感に苛(サイナ)まれる普通の人である。従って,彼らが,もし万一,核のボタンを押す気になったとしても,彼らを裁くことは出来ない。何故なら,彼らこそ人間だからだ。人間の判断ミスを咎(トガ)められるだけの人間はいない。熱核兵器が開発された時も,それを人口の集中している都市に投下することに躊躇(チュウチョ)しなかった人間が,世界の破滅に躊躇する理由など,当事者である権力者たちは持っているはずもなく,自分たちだけはシェルターに逃れてしまうに違いない。
地球は,宇宙でたった一つ生命が住んでいる惑星である。その食物連鎖の最上位にあるホモ・サピエンスの愚行によって核戦争と言わず,気候変動と言わず,今,まさに滅亡の危機に曝(サラ)されている。カーボンニュートラルも,ESG投資も理にかなった考えだったが,道半ばで中断を余儀なくされそうな雲行きである。人間にはこの星に対して,その生態系に対して,重大な責任を負っている,ということを幼児の時から自覚させる必要がある。それは,生命活動の初期段階から続いてきた”知“の集積の結果である現代の文明の次の担い手である人類と電脳の共存社会の土台となる時代にこそ,人間と生命の在り方についての人間の自覚が最も重要だからに他ならないからである。それなのに,生命のゆりかごである海にも災いは及びつつあり,微細化したプラスティックと環境ホルモンとによって,生態系が攪乱(カクラン)されている。
人類はイノヴェーションと生産性の向上によるパラダイムの転換こそが経済の正体であることに漸く気が付いたが,そこに到るまでに余りに多くの生命体の犠牲を払ってきたことを忘れてはならない。人間は自滅寸前で自分たちが自分で自分の首を絞めているのに気づいたが,それは未だ,人類全体の共有認識に至っていないだけでなく,生活のために現状維持を主張する階層も多く,タイム・ロスになりかねない,というのが実態である。