ショートコラムの憂鬱 2020 part 11 Clockwork and lecherous shameless(時計仕掛けと色仕掛けの破廉恥)。
その時、高橋章子(1952.10.28.)は、美術学校目指して浪人中の18歳の夏、だったと思う、と語っていた。気分はアセリ気味で虚無感に苛(サイナ)まれ、なにやらナサケナイの一言で、一人じゃヨソん家(チ)へ行ったことも無い自分が、妙に自虐的な心持ちになり、そのヨソん家(チ)、つまり、映画館に闖入(チンニュウ)...
微睡日記抄 その8
自分で言うのも変ですが、今の私も変ですね。 It’s strange to say it myself, but I’m also strange now. 円喜怒(マルキド)・砂土・哀楽でございます。この度は、大女優と言われる、某ヨシコ様に尽きまして、少々お耳汚しのお時間を賜りたく、謹んで、御願い奉ります。 さて、ヨシコ様というと、既に老境、...
イノセントラヴァーズ 8章 innocent lovers chapter 8
ミレヴァ・マリッチ 生涯の天使(lifelong angel)。 別居した二人の手紙のやり取りは、専(モッパ)ら離婚の条件についてだった。ミレヴァの健康状態は思わしくなく、表情も沈み、とても39歳とは思えない容貌に変化していた。子供たちは、落ち着かない様子の母親と自分たちを裏切った父親との不毛の争いに疲れ、取...
イノセントラヴァーズ 7章 innocent lovers chapter 7
ミレヴァ・マリッチ 生涯の天使(lifelong angel)。 何事もなかったかのように日々は続いた。晩餐の灯も消えなかった。いつものように人々は集い、二人の英知を讃(タタ)え、励ました。街はうっすらと明け、朝靄(モヤ)に身を包み、眠そうな知性が目を覚ます。1904年5月、二人に長男ハンス-アルバート(Hans-Albe...
イノセントラヴァーズ 6章 innocent lovers chapter 6
ミレヴァ・マリッチ 生涯の天使(lifelong angel)。 1902年1月の下旬、ミレヴァは大変な難産の末、女の子を出産した。リーゼルと名付けられたその子は、幸福とは縁遠い人生を歩むことになる。ミレヴァは、A・Eの到着を心待ちにしていたが、それは叶わなかった。しかし、彼は誠意を見せた。「君のお父さんから手紙が...
イノセントラヴァーズ 4章 innocent lovers chapter 4
ミレヴァ・マリッチ 生涯の天使(lifelong angel)。 A・Eとミレヴァは数式を用いて、レーナルトよろしく、宇宙の法則を解き明かそうと、計算に明け暮れる毎日を送っていた。彼らが、よく、夢中で読む本と言えば、新しいタイプの物理学者、マイケル・ファラデー(Michael Faraday 1791.9.22.-1867.8.25.)やジェーム...
イノセントラヴァーズ 5章 innocent lovers chapter 5
ミレヴァ・マリッチ 生涯の天使(lifelong angel)。 A・Eは、親族や世間体を気にする両親のありきたりの要求を呑んで、凡庸(ボンヨウ)な中等学校の教職に就こうとは思っていなかった。彼は若く、ロマンティックで野心に満ち、夢に憑(ツ)かれていた。彼は、自分の可能性を切り開こうと、自らを鼓舞し、能力を引...
イノセントラヴァーズ 3章 innocent lovers chapter 3
ミレヴァ・マリッチ 生涯の天使(lifelong angel)。 1981年12月、雨の夜、プリンストン大学の高等研究所から、大量の書類を運び出そうとする集団があった。彼らは重武装した一群の兵士であり、明らかに合衆国の軍隊ではなかった。 物語は26年前に遡る。20世紀最高の頭脳アルバート・アインシュタイン(Albert Ei...
虚ろなる涙 その4
徒然なる不幸。(吉田秀和の手記参照) その晩は、男の、最も親しく、かけがえのない輩(トモガラ)が、寂寞(セキバク)のしじまの彼方へ旅立っていく、やるせなく、哀しく揺蕩(タユタ)う、永訣の夜だったのだ。何者かが、凍える闇を徘徊し、沈黙の呪縛を呼び覚ます。それらは、我らを覆い、窒息させ、奈落へと突...
ショートコラムの憂鬱 2020 part 8
Route vers la liberte(自由への道)。 アルベール・カミュ(Albert Camus 1913.11.7.-1960.1.4.)の随筆に「シーシュポスの神話(Le Mythe de Sisyphe)」がある。シーシュポスSisyphos(Sisyphus)はゼウスZeusからある山の山頂へ巨大な岩を押し上げるよう命じられており、一日がかりで山頂へ押し上げるのであるが...
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