クラウドからエッジへ 5G時代のIT学 その1


IoT社会の到来が予言されて久しいが、思いのほか、その進展は早まらず、現在でも、それは部分部分の、特定の固定されたデバイスに偏って成立している、摩訶不思議な、昔、夢に描かれた、ユビキタス(?)社会の不完全モデル、とでもいうしかないシステムである。ほぼ同時に企画され、開発されたクラウド・コンピューティング・システムによる中央統合型の大規模計算処理機構、つまり、ビッグデータ解析を軸に構成され、SNSのアクセス頻度に基づくシーケンスなデータ編成列に象徴されるこのシステムは、常時、データを送受信する恒常化した電力浪費システムであり、そのため、デバイスとクラウドの間に、必ず、レイテンシ(遅延状態)を発生させる、至って野蛮な段階のハイ・コスト装置なのである。

しかし、その後、劇的に通信速度は改善され、遂に、現行の通信ソフト4GLTEと、多様化する各種IoTデバイスに対応したIoTゲートウェイが開発されたことによって、クラウド・コンピューティング・システムは大きく進展したが、それでも、遠隔医療手術や自動運転・交通管制システム、スマート・シティ、スマート・ファーム、スマート・ファクトリー等々を実現するには、レイテンシ問題、マルチチャネル・マルチタスク同時マネジメント、リモートセンシングとドローンなど可働デバイス制御問題など、限りなく、問題は山積していて、現行の100倍の通信速度を持つ5Gの実現とエッジ・コンピューティングの導入による大幅なコスト削減とレイテンシの最短化は喫緊の、最優先の課題であった。

IoTの概念は2011年前後に登場し、コネクテッド社会というインターネット・ブームに乗った、当時としては、凡そ実現性の無い夢幻(ユメマボロシ)の未来の話、と予感されるものであり、社会全体に張り巡らされたインターネットのネットワークと、各人の持つ、あらゆるデバイス、各家庭にある全てのIoTデバイス、各企業の全ての通信回線に接続している全制御装置に繋がるデバイスが、最終的に、中央に統合されたクラウドに集められ、その全データを一元的に管理、集中制御するという、ちょっと危険な構想である。

この流れから生まれたクラウド・コンピューティング・システムは、当時の中央制御志向の行政と売上第一主義の産業界の同床異夢の合意の下、急速に進展したが、いざ、そのシステムが起動してみると、特に、デバイス開発について、政府の方針もなく、何の方向性も示されないまま、各企業の独自技術に立脚した様々な製品が生産され、ネットワークとの整合が後回しとなり、クラウドに接続できないデバイスが出現する結果となってしまう。即ち、初期の監視カメラのように、比較的大きいだけならともかく、その後登場する低消費電力デバイスであるZigbeeやBluetoothなど、又は、LPWAに分類される軽量無線規格のデバイスは、結局、そのままではクラウドに接続することは出来ず、急遽開発された、自動的にプロトコルの変換などを行う、IoTゲートウェイの登場を待つ他なかった。

ところが、この方式がPoC(Proof of Concept;実証実験)を経て、構築段階を終え、実働状態に入った2017年の時点で、レイテンシが頻発し、現行システムの脆弱性が指摘され初め、加えて、デバイスの高性能化に対応できないネットワークの進化の遅れによって生じるコスト急上昇問題が表面化した。特に、固定回線を使わない農業向けなどの携帯電話系の回線を使用するケースなどでは、通信費の費用負担は、常時、クラウドとのデータのやり取りが行われっぱなしなので、膨大な額になる。あるいは、監視カメラを例に挙げると、昔はSD解像度(720×480ピクセル)だったものが、フルHD(1920×1080ピクセル)を経て、最近では4K解像度(3840×2160ピクセル)を使うようになっている。データ量はフルHDで6倍、4Kでは24倍と、ネットワーク帯域そのものの見直しが必要になる。さらに、これをクラウドにアゲルとなると、データの格納コストも半端でない。つまり、もはや、帯域・各脳容量から言っても、データ量を削減する以外、収支は合わないのである。

次に、度重なるレイテンシ障害について、であるが、例えば、ただ、気温データを蓄積していくだけの、一方的にデータを送る場合は、さほど問題があるとは思えないが、基礎データを受信してクラウドで何らかの処理を行い、その結果を送り返す場合などを想定すると、送受信時間は相当になる。又、クラウド自体の計算処理時間が比較的早くとも、実際に起動するのに、ばらつきがあったりする。エアコンの制御なら、いくらの支障も無くとも、インダストリアルIoT(ファクトリー仕様)などでの制御のレイテンシは大規模な被害も予想される大問題である。監視カメラを使った顔認証では、クラウド・サイドの「撮影から認識完了まで」の時間がかかりすぎ、「リアルタイム(既にレイテンシが発生しているが、)で、ターゲットを捕捉し、カメラを制御してトラッキングをかける」とか、「複数のカメラを連動させて、ターゲットを追跡する」といったことははっきり言って、無理である。クラウドとデバイスの送受信の時間は、いかように短縮しようにも限界があり、現行のシステム運用で、レイテンシの問題に解決策を見出すことは不可能である。仮に、無線を有線に切り替えても、4GLTEではほとんど何の変化もない。

掛かる不具合を抱えたクラウド・コンピューティング・システムも、5Gの登場によって、未だ、開発途上とはいえ、エッジ・コンピューティング・システムを取り入れて、改良と変容が始まった。元々、エッジEdge(周縁)という言葉は、ネットワークの分野で使われていた言葉で、データセンターなどで中心部にあるルーターのことをコアルーター、外部に接続する縁にあるルーターをエッジルーターと呼んでいた。それが、そのまま、IoTやAIのハードウェア分野にも使われるようになったと言われる。ところで、このエッジ・コンピューティングとは、どういうものか、というと、多様化し、より独立的に変化していくIoTデバイスにより近い環境にあって、エッジ・IoTサーバーを近接し、AIなども搭載して、様々なデータ処理・計算処理をその場(最終的にはデバイス・サイド)で実行するシステム、ということは朧気(オボロゲ)に分かるとしても、具体的に理解している人は少ない。                         

クラウド・コンピューティング・システムが、クローズド・エリア・ネットワーク(ローカル5G)にセパレート化し、やがて、パブリック・クラウドと様々なプライベート・クラウドが相関に位置し、混在しつつ、協働でそれぞれがそれぞれのデータ処理を行い、エッジ化したデバイスとの棲み分けも始まり、さらに、個々の分散したデータ処理が行われる時代が来る。何れ、デバイス自体が計算処理を行うようになり、エッジ・サーバーは小型軽量・大容量化して、人間が装着・携帯できるデバイスに変化するかもしれない。それは一人一人がデータセンターを持ち運べることを意味する。(それはある種のユビキタスかもしれない。)意外と、エッジ・コンピューティング・エラは近いかもしれない。

さて、言い忘れたが、セキュリティは、今や、絶対装備・絶対対応の必須項目である。現在、主要なIoTクラウドへの接続は、全てセキュアなものが基本である。ただ、リソースに余裕のない、温度センサーなどのような低価格のデバイスの場合、クラウドに接続できない。また、「機密性の高いデータを扱っているので、中央のパブリック・クラウドにデータを送り出すことができない」、あるいは、「公開できない暗号通貨のアカウント」という内容のデータもあり、この場合、IoT以前の量子暗号を利用するようなデータ加工技術の進歩に頼るしかない。

エッジ・サーバーによる具体的なコスト低減の一つの例として、先ず、建物の事故・地震・災害時のダメージ額の即時算出効果を挙げよう。これは事案が発生した現場にデバイスである振動センサーが設置してあれば、そこへ行く危険を避けられるだけで無く、エッジ・サーバーによって、その建物にどれだけの負荷がかかり、どれだけの時間で補修が可能か、復旧の可能性はあるか、無い場合、損失額の目安はいくらか、などをその場で解析し、最短時間で状況を判断できるシステムであり、新築物件を中心にニーズがある。 これを現行システムについて考えてみる。仮に、デバイス側にエッジ・サーバーを繋いだとしても、異常事案の起きていない平常時のシステム運用の維持コストが、問題である。サーバーが異常事案の発生を感知してシステムを作動させるか、定時チェックするシステムか、でないと、クラウドは常時、監視体制のままなのでデータ量は減らず、コストの低減に結びつかない。従って、システム構築を行う場合、飽くまで、エッジ・サイドに運用の決定権を与えておく必要がある。そうした意味で、現行クラウドの一義的中心体制は崩れることを知っておかなければならない。サーバーに蓄積されたデータは必要な時に必要な箇所だけがクラウドにアップロードされるようになるだろう。それはクラウド自体の効率を上げ、より精密・より迅速な対応を可能にし、延いては、コストの低減に繋がるだろう。それは、サーバーの初期導入コストがかかったとしても、現行システムのエッジ化は長期的には、肥大化してきた通信コストを大幅にカットする効果があると確信できるから。
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