退職後の生計と終末期医療 その3


退職後の生計と終末期医療   その3

終末期医療とは,いわゆる延命治療の事である。それは加齢による寝たきりの場合だけではない。つい最近まで,その筆頭は癌であった。しかも,今や,様々な難病も報告されており,実際のところ,老人だけの問題ではない。これら,人間の寿命に関する報告は,欧米では二通りの解釈がある。一つは従来の自然死であり,もう一つは,自分の意思で死を選ぶ尊厳死と呼ばれる形態だ。これには,延命治療だけを続けても,患者本人の苦しみが継続するだけ,という現実があり,それに比べれば,生前に本人が書面で意思表示をしておけば,疼痛や外傷を緩和ケアという手法で和らげ,安らかに永眠できる,という手筈(テハズ)である。確かに良心的ではあるが,日本では,あまり,馴染んでいるとは言えない面もある。それは,本人の意思を文書で言い残すという習慣はもっぱら遺言制度しかなく,それは,あくまでも臨終になって初めて機能するものだからである。つまり,意識があってもなくとも,本人の意思確認は非常に難しく,長期療養という事態になった場合には,延命治療の停止は担当医を通して,親族の代表に委ねられ,本人はそれに従うしかない,と言うのが現実である。

実を言うと,この長期療養と言うのは曲者(クセモノ)で,本人が認知症と診断された場合,その財産の処分には制限が掛けられ,相続手続きが済むまで実際には動かせない状態となる。それは,記憶障害と判断力の混濁状態を意味し,本人の社会性を喪失させる。従って,法定外の資産は凍結され,それは宙に浮いた状態となる。このような法規上の空白を避けるため,任意後見制度がスタートされたのだが,実際どんなケースに適用されたかは,まだ分からない。ただ,本人が死亡するまでの入院費用を始め,家族の生活費は勿論,一切の経済的負担は逃れようも無く,家族は,臨終を迎える日を待つだけということになる。さらに恐ろしいのは,合併症と呼ばれる複数の症状が現れ,それでも死亡しない場合である。当然,負担はさらに増え,混迷する家族のまとまりも失われていく。

こうして考えてみると,本人が生前に,尊厳死を希望することを明記した文書の重要性がよく分かる。尊厳死は,あくまでも,本人の意思で行われるものであり,自然で平穏な死を担保するものである。よく言われる安楽死とは,余命に関係なく,病気やけがを致死薬を投与して死に至らしめる違法な処置であり,尊厳死とは異なる。

癌の場合によくあるケースだが,緩和ケアについて簡単に触れておく。先ず,自宅療養の場合でも,訪問診療という形で緩和ケアは受けられる。入院の場合は,健康保険の適用対象となる緩和ケア病棟(ホスピス)入るのが最良である。負担割合が3割だと,1日当たりの入院基本料は,30日以内なら15,150円,31日以上60日以内なら13,540円,61日以上は10,050円などとなっているが,高額療養費制度の対象であるので実際には軽減される。しかし,緩和ケア病棟でも,病室によっては差額ベッド代がかかる場合があり,それは全額自己負担となるので注意する必要がある。尚,平均的な病室料金は17,000円から22,000円であり,その病院の専属の医師数によっても違いがある。

費用負担については事前の準備が肝要であり,加入している医療保険・がん保険・生命保険の詳しい内容については,該当する保険会社に問い合わせておいた方がよい。又,施設により,治療内容はそれぞれ異なるので,延命治療を一切行わないとしている病院でも,病状の進行や急変によっては,疼痛緩和のため放射線治療を行うケースもあり,その病院について事前に主治医とよく相談をしておく必要がある。緩和ケア病棟は,希望したからと言って,すぐ入院できるわけではなく,主治医の診療情報提供書と画像データを施設の担当部署に提出して審査を受けなければならないし,病室に空きが無ければ入院できない。希望者がすぐ入れるところは少なく,早く入れれば幸運である。
2021年10月29日
Posted by kirisawa
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