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現在,60歳代で子と同居している世帯は珍しくない。子は40歳か30歳代であり,平均所得は手取り30万円から40万円くらいで,親の所得もサラリーマンで50万円前後であればいい方である。家が戸建てでローンの完済が目前といったところであり,多分,今が最も一家の所得が安定している時期かもしれない。そして,孫たちの教育経費が一番掛る頃でもあり,その進路次第で,資産があればだが,相続の準備を考えなければならない時期でもある。事業者にとっては承継の準備にも手を付けなければならない大切な時期であり,最近は民事信託という手法もあることを知っておいた方がよい。事業の存続についても考え方も変化してきており,税理士や司法書士に相談し,早めに対策を練っておいた方がいいだろう。
しかし,問題は被相続人の健康状態である。これは加齢によるばかりでなく,突然襲ってくるケースが大半で,保険に入っているから安心だ,などと思っていたら大間違いである。入院が長引けば,それだけで様々な経費がかかるうえ,事業者であれば,取引先を失いかねない大ピンチである。一般人でも,長期療養に耐えるだけの貯えがあればよし,保険だけが頼りというのでは心もとない。普段から,いざという時のことを考えておくのは世帯主の義務でもあり,ここではっきり言えることは,自分の資産形成は30歳くらいから始めては遅すぎる,ということである。
退職後の生計を考えてみた場合,医療費対策は何をおいても主眼となる。仮に定年延長,あるいは定年廃止となった場合,当然,退職金の時期もスライドする。しかも,これからは能力給の時代である。普段の自己啓発,知識吸収力がものをいう時代である。これに付いていけるか,どうかが試される毎日が続くのである。電脳の職場への進出は思っている以上に早いだろう。ディジタル・トランスフォーメーション(DX)の時代である。敗残兵として,会社に残るか,退職して何かを始めるか,はてさて,心もとない年金生活を余儀なくされるか,は自分次第であるが,それは,子の世代も同じこと。寄り集まって暮らすことになりそうだが,心身ともに健康でなければ,意味がない。誰か一人でも入院加療となれば,そこからの経路は,自宅療養,施設介護,又,入院と続き,いつかは,何処かで臨終するしかない。
そして,これからが肝心なことになる。問題は病気の後遺症が残ったり,意識が戻らない時は長期療養となり,本人の資産だけでは賄いきれなくなる場合がある,ということだ。このような費用負担が次の世代に残ることは不名誉なことではあるが,避けては通れない。さらに,施設介護の様々な不祥事により,パンデミックの追い打ちを受け,施設自体への不信感が高まっている。厚労省はこれらの問題に対し,施設から在宅へと舵を切ることを決定し,今は過渡期と位置付け,サービス付き高齢者住宅制度をスタートさせた。今,施設側は,この新制度を受け,施設全体をその条件に合わせて登録し始めており,何のための新制度か,は判然としない状態である。
もし,100年人生が普通の状態となった時に長期療養者の家族はどのようにして生活していったらいいのか。加えて,子も孫も同居していない老々介護の場合などに多い相談ではあるが,答えは無い。昔は,不定期治療期間を表す言葉として“終末期”という言葉があったが,今は事実上,死語である。確かに余命3ヶ月のがん患者に新薬を投与したところ,数年間生存した例もあったが,今は珍しくないし,認知症末期の患者に胃瘻(イロウ)をして5年ほど延命した例もあり,“終末期”とはいったいどのくらいの期間を言うのかは,曖昧になりつつある。