マートレーヤ 6章 不合理との戦い。Fight against Absurdity。


horror game。

今、終焉を迎えようとしているトランプ政権が、その就任直後、発令した「メキシコシティ政策」に関する大統領令の弊害は罪深く、多くの人々に不幸をもたらした。「メキシコシティ政策」とは、国際NGOがアメリカ政府の資金援助を受ける場合、人工中絶に関するカウンセリングや中絶手術自体を自粛することに同意を強制する規約の事で、皮肉を込めて、グローヴァル・ギャグ・ルール(世界だんまりルール)と揶揄(ヤユ)されている。この馬鹿げた規約は、1984年、メキシコシティで開催された人口問題会議の席で、当時のレーガン大統領が発動したもので、1993年には、クリントン政権によって撤回されていた。しかし、その後も、政権交代の度に、復活・廃止が繰り返される始末で、アメリカの人権に対する姿勢は揺らぎ続けている。

トランプ政権は、この反人権政策をさらに強化し、経済的に苦しい女性たちの生活に追い打ちをかけた。即ち、NGOがアメリカ以外から調達した資金の用途にも使用制限を加え、違反した場合、母子保健、栄養、HIV・マラリア・結核等、感染症の治療予防、など、人工中絶と直接、関係ない医療行為も規制の対象にしたのである。これに対し、国際社会は黙っていなかった。オランダ政府は、すぐさま、国際的中絶基金「She Decides(彼女が決める)」の設立を発表、1,000万ユーロ(≒12億円)の拠出を約束した。2017年3月には、オランダ、ベルギー、スウェーデン、デンマークが共同で、「She Decides」の国際会議を開催、日本を含む50か国以上が参加し、各国の拠出金、加えて、世界中からの寄付、合わせて2億ユーロ(≒235億円)を基金とし、国連UN、国際機関、NGOに分配することが合意された。

カナダ政府は、会議後、これとは別に、性と生殖に関する健康・権利に取り組むNGOに対し、6億5,000万カナダドル(≒560億円)の支援を表明した。日本政府も、国連人口基金と国際家族計画連盟に、約31億円の支援を表明した。「She Decides」には、その後1年でさらに2億5,300万ユーロの拠出金が集まったが、アメリカの規制によるダメージは推定でも、74億ドル(≒8,000億円)に達したとみられ、その影響は覆うべくもない。人々の被った災禍が、自由世界のリーダーである一人の傲慢(ゴウマン)な権力者によって、招き寄せられたものだったとしても、民主主義社会という、公正に裏打ちされた制度の代償であると思うしかないのが現実であり、AIにも勝てぬ、ホモサピエンスの知恵の限界というしかない。
2020年08月03日
Posted by kirisawa
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