幸運の輪[Wheel of Fortune];煉獄への誘い その9


溜息の邂逅。

つづれ織り。千紫万紅。

皆が顔色を窺うように、僕も舌なめずりをしながら、彼の後ろをついていく。何が待っているかも判らぬままに。ただ、美味しいものに有り付きたくて。

愛人奇人の集まりだそうです、この世の中は。そうでしたか。知りませんでした。てっきり良人善人の方ばかりだと思っていました。

幸福への哀悼。

その町で、ツァラトゥストラは人々に、“超人とは、何か?”を説こうと試みたが、耳を傾ける者は、誰一人、いなかった。広場では、一本のロープの上を一人の綱渡り師が、群衆の嘲笑と罵声にもめげず、真剣に、ただ黙々と渡っていくところだった。それは、人間が、さらなる高みへと昇っていく姿でもあり、ツァラトゥストラの目には、感動的ですらあった。しかし、思いがけない不幸が、彼を襲った。闇雲に、道化師の男が、背後から、ロープに飛び上がり、綱渡り師を飛び越えて、彼を地面に落下させた。気の毒な結末。綱渡り師は死んだ。が、ツァラトゥストラは、イエスを葬ったアリマタヤのヨセフよろしく、綱渡り師を担ぎ、彼の高潔な生き方に敬意を払い、墓地まで運んでいった。

Gott starb. Ewig wiederkommer. Ubermenschen. Also Sprach Zarathastra.

田舎じゃ暮らせない。

田植えはしたくない。36年前のただいま。暗闇のお風呂。ナマケモノは君だ。歌うあなた、笑わない私。地球は君のモノだ。20年ぶりの洗濯。楽しい時、哀しいこと。唐笠の蛇の目。銀盤に煌めく星座。銀ちゃん。ドルフィン・アイランド。思い出の餃子。猫のメタモルフォーゼ。

涙も汗も血も、その壁に塗り籠められているのだ。

 Von allen Goschriebenen liebe ich nur das was einer mit seinem Blute schreibt.

 Of everything written I only love what one writes with his Blood.

 Sugar townの出来事。

昼下りの午睡。溶融する記憶回路。忘却のスイッチ。閉塞性遊眠症候群。行き場のない眠気。火照る(熱る)体。だから、ホテル。余熱(ホトボリ)を冷ます。突然の睡魔の強襲に狼狽(ウロタ)え、ソファーへ倒れ込み、頭部から血の気が引いていく感覚に、気は遠くなり、何時しか、すっかり、寝入ってしまう。誰もいない日曜の午後、陽は未だ、中天を過ぎたばかりで、青天白日の下、囀(サエズ)る鳥もなく、不自然な静寂だけが続いていた。

束の間の叡智の伝道師。愛欲の愚昧の夢の核融合炉は今始動した。果てしなき欲望のままに。後退(アトズサ)りして、我が儘で、気儘な、その娘は、欲しがる素振りも見せず、一途(イチズ)に突進する。永久不滅の、しかし、そこは不生不滅の、全ての終焉の地、黄泉の世界、冥府の入り口であるかもしれない。行き着く所は、死。思いがけない結末が、あなたを待っているかもしれない。一寸先は闇、そういうことである。

自滅願望への憧憬(象形)。栄光空想。思考(指向)の断末魔の叫び。自然(現実)との乖離。恒久の挫折。破滅・逃避による自己救済・自己完成(実現)。責任回避の隠蔽。自己陶酔は自己逃避の隠れ蓑。自他逆転。運命愛は、実は、自己愛の裏返しに過ぎない、小児後遺症的偏愛状態。他律的行動原理を主張する、自己責任回避の卑劣な、あるいは、哀れな、主体放棄の存在。敗北的運命の受容・承認者。ある意味、予定調和の肯定論者で、神の僕(シモベ)。

深刻になって、自分を追い込んで、とどのつまり、出口なし。理屈じゃない。ま、いいじゃないか。手の打ちようがないんだから。悲しいね。誰にも、打ち明けようがないんだから。悲しいね。

夕暮れの街角。日暮れ時。
2020年08月03日
Posted by kirisawa
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