楽園の破綻 the collapse of paradise extra edition(sonata in fall)


早くも、4月には、それは始まっていた。パンデミック・ショックに見舞われた3月、休業に追い込まれたサービス業の従業員たちを中心に、賃金カットの嵐は吹き荒れ、その大半の30代の既婚者層には、戸建てやマンションを住宅ローンで購入して間もない人も少なくなかったことから、ローンの返済に立ち往生する世帯も出始めて、一気に危機感が漂い出した。しかし、労働協約があるため、本人が特に退職を希望しなければ、雇用は継続されるのが普通であり、今回のような不慮の災害に際しては、雇用調整助成金のような公的な支援もあり、直ぐに路頭に迷う、ということもないと、安直に考えられていて、従って、余程のことがない限り、ローン破綻の犠牲者は出ないものだ、と思われていた。ところが、そうではなかったのだ。皆、高を括(クク)っていたことになる。

6月に入ると、それは社会問題化していた。5月末の契約社員の雇止めの影響も大きく、雇用情勢は悪化の一途を辿っていたが、表面的には、まだ、大規模な雇用調整に踏み切る企業もなく、一応安定した状況にあった。それは、雇用調整助成金制度がその歯止めとしての役割を十分果たしていて、この仕組みがあったればこそ、本来なら、資金繰りに行き詰まって倒産していても、おかしくないゾンビ企業も生き残り、何か、本末転倒でもあるかのような有様ながら、多くの人々が、辛うじて、いつもの暮らしを続けることができていたのであって、そうでなければ、すったもんだで、「他のローンはリボ払いで逃げられる。でも、車と家と教育ローンは逃げようがない。家を手放すか?他に方法は無い。仕事を辞める前にキャッシング。これは忘れてはなるまい。雇用保険が切れるまでに、なんとかせねば。」といった家庭が、巷(チマタ)に犇(ヒシ)めいていたかもしれない。だが、それは、今のところは、回避されていた。油断はできないが。

懸念される9月がやって来る。この8月から、キャッシングの伸びがどうなっていくのか、心なしか、心配である。もし、9月からのローン返済が縮小し始め、一方で、キャッシングの利用残高が増加していく傾向が現れれば、それは、やがて、個人の自己破産者の増加につながる前兆かもしれない。ローンの滞納者は増加している。これが、大いなる危機の兆しであることははっきりしている。イザ、という時のことは考えておかなくてはならない。即ち、身近な金融機関である地銀や信用金庫などが、信用不安などによって立ち行かなくなることの無いように、打つべき手を打っておく必要がある。しかし、それは、何時も、泥縄で、おそらく、こんな手しかない。これは非常手段であろうが、ローンの滞納者がある程度以上の数に膨らんだときは、時限立法で持って、支払いの猶予を認める、とか、して、事実上の延長を認める、という方法である。それしか、中小の金融機関を破産から防衛する公明正大な、誰もが納得する言い訳は無い、のではないか、と思う。然る後に、不良債権の処理という問題に進むのが妥当な展開だろう。もっとも、今、地銀には、SBIグループが接近している。経営基盤が揺らいでいる、自力再生が困難な脆弱行にとっては、それは心強い味方である。破綻の危機を回避できるのであれば、それに越したことは無い。

とか、いつもの場外から、間の抜けた、愚にも付かぬ戯言(タワゴト)を繰り返しているに過ぎないが、ここ3,4日の間に動きがあって、どうやら、そんなことにはならない情勢に風向きが変わってしまった。取り敢えず、雇用調整助成金は12月まで延長することで、失業を抑えるべく根回しがされていたが、ここにきて、到頭、大盤振る舞いのついでに、年度末の補正予算にまで手を付け、来年の3月まで再延長する、という案を、もう、厚生労働省は内々に決めてしまったようである。形振(ナリフ)り構わぬ振る舞いの付けを払わされるのは、誰なのか、後ろの正面、だーれ?

これで、本当に年末の資金不足が解消し、雇用情勢が安定に向かう保証でもあれば、ひとまず、年越し、ということにもなるだろうが、差し当たって、今、これ以外に、何処にも、そんな安心材料は無い。果たして、ここを切り抜けられるや否か、寧ろ、それが問題である。
2020年08月07日
Posted by kirisawa
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