<sign・言葉・文字・AI>その1


生命体は何らかの形で”sign”(しるし)を使って活動している。単細胞生物も多細胞生物も、電気的信号、あるいは化学的信号を”sign”として利用している。両生類は化学物質、粘液を生活圏の確保に使うものも多い。爬虫類では嗅いをコミュニケーションcommunicationの手段にするし、コブラのように音を威嚇に使うものもいる。鳥類の特長は鳴き声である。それは何らかの規則性があり、求愛・捕食・自己防衛などの”signs”である。ほ乳類になると、他の動物には見られない行動をとる。それは木の葉や石を使って食べ物の保管場所のしるし”sign”とする習性をもつものがいることだ。これはシンボルsymbolの始まりと言えるし、いわゆるマーキングmarkingとは一線を画すものだ。

又、ほ乳類の声は明らかに意味を持っている。何らかの事態が生じれば、それに対応して声を発する。そして、この声が”しるし”を指し示すものであったなら、それは言葉wordsに近いものと考えざろうえない。こうした流れの下に、ヒトの言語体系の布石が準備されていたとすると、すでにヒトの登場以前から”知”の集積(知識の集約)は始まっていたと思われる。猿人・原人の時代にも、単語のようなものはあったと見るべきだろう。それらはまだ発音が一定してはいなかったかもしれない。しかし、それは表現の手段として有効だったろう。

それを受け継いだヒトhomo-sapiensの登場は約40-25万年前であるが、ミトコンドリアDNAの分析によると現代人の共通の祖先は14万3000年前±1万8000年頃分岐したとされる。言語学者のチョムスキーによれば言語の成立は約6万年前の出アフリカの時期で、そのときに突然変異によってヒトの脳に何らかの変化が起きたためだというのだが、そんな都合のいい話はあり得ないと思う。ヒトの出アフリカ、すなわち、住み慣れた土地アフリカを旅立ち、地球上の各地に拡散していった時代、言葉はそれと共に広まっていき、様々な技術や文化も広まっていっただろう。それはまだ稚拙な技術や他愛もない歌や踊りだけだったとしても、その時代ではハイレベルhigh levelな文化cultureだった。

こうして蒔かれた種から様々な言語が生まれ、ヒトはただ意志を示すだけでなく、情報を伝達する手段としての言葉を世代を超えて伝えるようになり、遠からず文字を生みだし、文明という知識集約社会を構築することになる。

言語体系が確立され、”知”の集積スピードspeedは増したが、それでもまだ、情報を記録することはできなかった。そこでヒトは新たな手段を思いついた。つまり、文字characterである。もともと、表象symbolであった絵文字pictogramを抽象化したり、組み合わせたりして、いわゆる原文字proto-writingを経て、象形文字が誕生した。B.C.4000年後半、後期新石器時代から青銅器時代へと移る頃、最初の文字体系が発明されたと考えられる。すでに定着していた言語体系によって、その文法を記述することも可能となり、文章sentenceが組み立てられ、そこから文書documentsが編み出された。媒体はパピルスpapyrus、粘土板clay tabletなど様々だが、形式的にはほぼ同じである。B.C.3000年代には公文書から日常の商取引きに至るまで、情報の記録は一般化されたが、識字率は低かった。しかし、”知”は世代を超え、地理的にも持ち運べるものとなり、格段にアクセスaccessできる機会も増えていった。
2017年04月12日
Posted by kirisawa
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