HOME > 進歩か?進化か?当惑の未来。ボクたちは何処へ行ってしまったのか? いでんしじょうほうこうがく その5 最近の投稿 不思議の国の高度理系人材の不足 2 不思議の国の高度理系人材の不足 1 ショートコラムの憂鬱 2022 part 2 知らず語りのレトリック。 幸運の輪 [wheel of fortune];煉獄への誘い その11 アーカイブ 月を選択 2022年12月 (1件) 2022年11月 (3件) 2022年10月 (3件) 2022年09月 (12件) 2022年08月 (4件) 2022年07月 (3件) 2022年06月 (10件) 2022年05月 (4件) 2022年04月 (2件) 2022年03月 (2件) 2021年12月 (7件) 2021年11月 (7件) 2021年10月 (9件) 2021年09月 (3件) 2021年08月 (10件) 2021年07月 (5件) 2020年11月 (10件) 2020年10月 (6件) 2020年09月 (8件) 2020年08月 (11件) 2020年07月 (12件) 2020年06月 (15件) 2020年05月 (11件) 2020年04月 (3件) 2020年03月 (11件) 2020年01月 (3件) 2019年12月 (3件) 2019年11月 (9件) 2019年10月 (5件) 2019年09月 (5件) 2019年08月 (5件) 2019年07月 (7件) 2019年06月 (6件) 2019年04月 (1件) 2019年03月 (5件) 2018年12月 (4件) 2018年11月 (1件) 2018年08月 (2件) 2018年05月 (2件) 2017年11月 (1件) 2017年08月 (1件) 2017年06月 (2件) 2017年05月 (1件) 2017年04月 (2件) 2017年03月 (3件) カテゴリー カテゴリーを選択 コンピューター AI トピックス ドイツ ネコ 世界 人 占い 哲学 地球 宗教 工学 心理学 手塚治虫 文学 歴史 環境 生活 生理学 真理 社会 神聖ローマ帝国 科学 経済 自我と人格 言葉 言語 近代ドイツ 運命 音楽 進歩か?進化か?当惑の未来。ボクたちは何処へ行ってしまったのか? いでんしじょうほうこうがく その5 世の中は何か常なる飛鳥川 昨日の淵ぞ今日は瀬となる ボクたちは何処へ行ってしまったのか? Where have we gone ? part 2 リチウムは現在も広く使われている治療薬で、単純なアルカリ金属元素に過ぎないのに、双極性障害の躁状態にも、うつ状態の予防にも効果がある不思議な薬である。その作用機序を調べてみると、イノシトールリン脂質系というシグナル伝達系を介して、カルシウムシグナルの伝達を変化させていることが確認でき、さらに、血液細胞のカルシウム濃度を調べた結果、双極性障害の患者では、その濃度が高い傾向を示し、この疾患が脳内物質の分泌調整の不具合に起因するものであることを暗に示す結果となっている。前章で示した通り、細胞内のカルシウム濃度は低く保たれているが、特別に、その例外器官として、ミトコンドリアと小胞体には、カルシウムが集中していて、濃度が高い状態であることも分かっていて、双極性障害の患者では、この器官の何れか、或いは両方に、障害があることがすでに分かっている。つまり、カルシウムシグナルの機構がカルシウム過多の状態で、バランスが平衡を失っており、正常な脳内物質の分泌を阻害しているのである。 リチウムが、このバランスの改善に有効に作用していることは、確かに予想されるが、そのメカニズムは如何なるものであろうか?1990年代以降、磁気共鳴スペクトロスコピーという、高磁場MRIを使って、生体の化学的分析する臨床手段が開発され、脳疾患障害の医療の分野でも、著しい進歩が見られた。双極性障害の患者の臨床例では、脳のエネルギー代謝が観測され、うつ状態では、クレアチンリン酸(ATP生成に利用される物質)が低下し、症状の緩和状態でPHは低下する(リチウムのアルカリ効果と同じ)ことも確かめられた。そもそも、ミトコンドリアは、細胞内でそのエネルギー、ATP(アデノシン三リン酸)を産成する器官であり、この器官の異常は、脳内ホルモンとの相関によって、説明されなければならない事象である。即ち、このミトコンドリアの衰弱は、脳下垂体のホルモン分泌と相関し、その分泌の量的減少は直ちに、セロトニン、ドーパミンの不足となり、行動の消極化に発展し、前頭前皮質の活動を弱体化させる。これは、うつ状態を顕す。一方、この逆の、ATPの過剰産生は、興奮作用となって、ホルモン・バランスを乱し、テストステロンやエストロゲンの分泌周期に影響を与え、行動の変異に繋がり、前頭前皮質を混乱させる因(モト)となっている。これが、即ち、躁状態を示す。おそらくは、このような因果的なフローではないだろうか? 上述した現象的推論は未だ立証されたわけではない。しかし、何らかの総合的推定が必要であり、実証の方向性を特定しておかねばならない。検証指針とでもいうべきものである。臨床の実例に戻ると、イタリアの事例によると、ミトコンドリア病の一つである慢性進行性外眼筋麻痺の症状である、眼瞼下垂(瞼が垂れる)が、双極性障害の特徴だったことが、この磁気共鳴スペクトロスコピーという方法によって、明らかにされている。しかし、エネルギー代謝の研究だけでは限界があった。引き続き、調査を行うため、分子レベルでの実験が準備された。脳のミトコンドリアDNAの変異を調べることによって、その、躁・うつ、の周期性の予測が可能になり、その期間におけるエネルギー代謝のデータ、即ち、カルシウムシグナルの変化の経過を読み解くことで、その特異的性質を解き明かす道が開かれたのである。 画して、理化学研究所の加藤忠文副センター長のチームは、遺伝子改変マウスを使った、分子レベルでのミトコンドリアDNA変異に起因する脳のエネルギー代謝障害についての実証実験に取り組むこととなったが、その時点では、依然、遺伝子レベルの基本データの解釈は手探りの状態であり、実験はあくまで仮説先行のままに実施された。ここで使われたミトコンドリアDNAポリメラーゼ(POLG)という遺伝子は、ほどけた二重らせんを鋳型にして、DNAを複製するときに機能する酵素で、POLGはミトコンドリアDNAを専門に複製する酵素である。実験チームは、先ず、脳に変異が蓄積するように、脳の神経細胞だけに発現しているプロモーター(DNA配列によるスイッチ機構)とPOLGの変異体を接続し、ミトコンドリアDNAが正常に複製されないトランスジェニックマウス(野生種が持っていない遺伝子を人工的に導入した実験種)を製造し、つまり、双極性障害モデルマウスを作り出して、そのミトコンドリアDNA変異と病巣との関連を特定する、実験を行い、非常に興味深い、以下の結果を得た。マウスの行動量を長期間、観察、計量したところ、性周期行動を含む、昼夜逆転現象や、回し車の輪回し回数カウントなどにより、ある一定期間の周期で、行動量が著しく増減することが判明した。これは言い換えれば、ある一定の周期で、躁の状態が発生し、又、ある一定期間を置いて、うつの状態が発生することを意味し、病巣が変異と相関することを示すものである。 心理学 生活 生理学 社会 科学 2020年11月09日 Posted by kirisawa 戻る
ボクたちは何処へ行ってしまったのか? Where have we gone ? part 2
リチウムは現在も広く使われている治療薬で、単純なアルカリ金属元素に過ぎないのに、双極性障害の躁状態にも、うつ状態の予防にも効果がある不思議な薬である。その作用機序を調べてみると、イノシトールリン脂質系というシグナル伝達系を介して、カルシウムシグナルの伝達を変化させていることが確認でき、さらに、血液細胞のカルシウム濃度を調べた結果、双極性障害の患者では、その濃度が高い傾向を示し、この疾患が脳内物質の分泌調整の不具合に起因するものであることを暗に示す結果となっている。前章で示した通り、細胞内のカルシウム濃度は低く保たれているが、特別に、その例外器官として、ミトコンドリアと小胞体には、カルシウムが集中していて、濃度が高い状態であることも分かっていて、双極性障害の患者では、この器官の何れか、或いは両方に、障害があることがすでに分かっている。つまり、カルシウムシグナルの機構がカルシウム過多の状態で、バランスが平衡を失っており、正常な脳内物質の分泌を阻害しているのである。
リチウムが、このバランスの改善に有効に作用していることは、確かに予想されるが、そのメカニズムは如何なるものであろうか?1990年代以降、磁気共鳴スペクトロスコピーという、高磁場MRIを使って、生体の化学的分析する臨床手段が開発され、脳疾患障害の医療の分野でも、著しい進歩が見られた。双極性障害の患者の臨床例では、脳のエネルギー代謝が観測され、うつ状態では、クレアチンリン酸(ATP生成に利用される物質)が低下し、症状の緩和状態でPHは低下する(リチウムのアルカリ効果と同じ)ことも確かめられた。そもそも、ミトコンドリアは、細胞内でそのエネルギー、ATP(アデノシン三リン酸)を産成する器官であり、この器官の異常は、脳内ホルモンとの相関によって、説明されなければならない事象である。即ち、このミトコンドリアの衰弱は、脳下垂体のホルモン分泌と相関し、その分泌の量的減少は直ちに、セロトニン、ドーパミンの不足となり、行動の消極化に発展し、前頭前皮質の活動を弱体化させる。これは、うつ状態を顕す。一方、この逆の、ATPの過剰産生は、興奮作用となって、ホルモン・バランスを乱し、テストステロンやエストロゲンの分泌周期に影響を与え、行動の変異に繋がり、前頭前皮質を混乱させる因(モト)となっている。これが、即ち、躁状態を示す。おそらくは、このような因果的なフローではないだろうか?
上述した現象的推論は未だ立証されたわけではない。しかし、何らかの総合的推定が必要であり、実証の方向性を特定しておかねばならない。検証指針とでもいうべきものである。臨床の実例に戻ると、イタリアの事例によると、ミトコンドリア病の一つである慢性進行性外眼筋麻痺の症状である、眼瞼下垂(瞼が垂れる)が、双極性障害の特徴だったことが、この磁気共鳴スペクトロスコピーという方法によって、明らかにされている。しかし、エネルギー代謝の研究だけでは限界があった。引き続き、調査を行うため、分子レベルでの実験が準備された。脳のミトコンドリアDNAの変異を調べることによって、その、躁・うつ、の周期性の予測が可能になり、その期間におけるエネルギー代謝のデータ、即ち、カルシウムシグナルの変化の経過を読み解くことで、その特異的性質を解き明かす道が開かれたのである。
画して、理化学研究所の加藤忠文副センター長のチームは、遺伝子改変マウスを使った、分子レベルでのミトコンドリアDNA変異に起因する脳のエネルギー代謝障害についての実証実験に取り組むこととなったが、その時点では、依然、遺伝子レベルの基本データの解釈は手探りの状態であり、実験はあくまで仮説先行のままに実施された。ここで使われたミトコンドリアDNAポリメラーゼ(POLG)という遺伝子は、ほどけた二重らせんを鋳型にして、DNAを複製するときに機能する酵素で、POLGはミトコンドリアDNAを専門に複製する酵素である。実験チームは、先ず、脳に変異が蓄積するように、脳の神経細胞だけに発現しているプロモーター(DNA配列によるスイッチ機構)とPOLGの変異体を接続し、ミトコンドリアDNAが正常に複製されないトランスジェニックマウス(野生種が持っていない遺伝子を人工的に導入した実験種)を製造し、つまり、双極性障害モデルマウスを作り出して、そのミトコンドリアDNA変異と病巣との関連を特定する、実験を行い、非常に興味深い、以下の結果を得た。マウスの行動量を長期間、観察、計量したところ、性周期行動を含む、昼夜逆転現象や、回し車の輪回し回数カウントなどにより、ある一定期間の周期で、行動量が著しく増減することが判明した。これは言い換えれば、ある一定の周期で、躁の状態が発生し、又、ある一定期間を置いて、うつの状態が発生することを意味し、病巣が変異と相関することを示すものである。