幸運の輪[Wheel of Fortune];煉獄への誘い  その3


 ヨセミテYosemiteに雪は降り続き、ただ、静寂だけが、山々と渓谷の生き物たちを包み込んでいる。何もかもが眠りにつき、風は止まり、ただ、夜のしじまが、その世界を支配する。倹(ツマ)しい食卓に聖夜の食事が運ばれ、家族は祈りの時を迎えた。ネフィリムNephilimたちの夜は過ぎゆく。

 end titleから始まる物語。
 Fin. 嘗(カツ)て、世界は終わっていたのかも知れない。変容の一形態に過ぎぬinflationから生じた宇宙は、重力の魔力によって、光の中を膨張し続け、果てしなく、どこまでも広がっていく、かのようだったが、実は、その星々の時代も数兆年後には、核融合の燃料である水素の消耗によって力尽き、枯渇し、冷たく、重い暗黒の時代へと変遷していくことが、既に、解っている。それでも、きっと、時空は流動することもなく、世界は連綿と続いていくのだろう。いつ果てるとも知れない有限(幽玄)の夢の中を。

 星雲と呼ばれる靄(モヤ)の中に塵(チリ)とgasは混在していて、その空間を彷徨(サマヨ)っていた。重力がそれらを取り巻き、押し潰そうとするように力を加えたので、それらは圧縮され、凝集されて混じり合った。重力は、さらに、さらに、それらを、執拗に圧迫し続け、その結果、それらは、分子に、さらに、原子にまで、究極の点にまでに収縮した。最も軽い水素(hydrogen)原子は+(plus)の磁気を帯びていて、高熱高温のプラズマ(plasma)の中を反発しながら飛び回りだし、急速に原子同士の距離を縮めていく。重力の圧力は一層強まり、さらに加わった圧力で、温度は、さらに、上昇し、散乱する粒子状物質の中から、光子(photon)同士の結合が始まる。核融合の引き金は引かれた。水素はヘリウム(helium)に変わった。そこで生じた質量の差に相当するenergyが発生したのだ。重力は圧力を加え続け、反応は平衡し、核融合と重力は均衡して、安定した天体が形作られていく。画して、また新しい恒星が、“星”が誕生した。

 宇宙は、急速に拡大した。銀河に星は満ち、今や、1000兆個の星々が輝く。しかし、それも、束(ツカ)の間の夢想である、と言う。

 銀河系の片隅の太陽の惑星には生命現象が存在し、それを構成する元素・物質も、超新星に由来するものであることが知られていたが、この一部の有機生命体が“知性”を持つことについては、その理由は、未だ、解っていない。その外形である実存と、脳内で行われる思惟の虚空を漂流する内在とが、生命活動と同時並行・動的平衡するtotalized systemなのか、どうか、も、推測の域を出ない。

 壊れゆく未来の救済を担う、光明となる人々は、まだ幼い。永久(トコシエ)の途上にある沈寂、わび(詫び)・さび(錆・寂)。悠久の流れの果てに訪れるだろう終焉。そこへ到達することは決して、無い。耽溺の宇宙を抜け出すことなど、不可能だから、だ。過去を振り返る勇気も無く、“間”も無く、余裕も無い。無益である。反芻(ハンスウ)され、咀嚼(ソシャク)され、飲み込まれ、昇華(消化)される日々。費やされる時間。浪費。無益である。ヒトは、時として、愚かなことを思索するものである。だが、それが無益であり、無価値であろうと、茫漠とした想像の所産、錯覚の希望が必要なのである。ヒトの時代は去る。そして、生命の時代も。星々の時代さえ、遠い昔日の幻影と化し、知性そのものも消滅してしまうだろう。大いなる“知”の系譜も。Fin.

 月(moon)は、何者か?
 月は、魂の飛翔する世界である。月は古代より、霊魂の住む世界とされた。その理由は定かではないが、月による生命への生理的・神秘的・精神的影響については、多くの体験談・解説書が残されており、まさに、霊感をもって、その存在事由を肯定するものである。

 45億年前、太陽系が創成した時、宙空の第3軌道には、まだ地球(earth)も、月も生まれてはいなかった。そこには、二つの、大小の溶融した原始惑星が、近距離で振動しながら周廻していて、如何にも不安定な状態であって、当(マサ)に、これから起こる事変を予感させる不安の兆しが満ち満ちていた。

 最初の大きな衝突の後、さらに、軌道上に接近していた小惑星をも巻き込んで、複数回の衝突が起こった。各々の惑星は、破砕し、遠心力と重力(引力)とによって、合体し、また、衝突し、新たな核を持つ、それぞれの天体に再結合した。それらの天体が、軌道上で安定するまでに、各々の位置関係は引力の均衡によって確定したが、それこそが、地球であり、月であった。

 月は、今でも、地球に生命をもたらした功績を隠そうとはしない。勿論、海はなかった。しかし、地軸の傾きは、月の引力によって左右される。当然、気象は、月の周回に相関し、海も出現し、周期的な潮汐の運動も始まり、何よりもまず、季節(seasons四季)が生まれた。海に生命が誕生するのは、正しく、太陽と月の交合に縁(ヨ)る。この地球の生態系の基本構造は、月の影響力の賜物であり、「かけがえのない地球」とは、実は、月の恩恵によるものなのであった。
2020年01月07日
Posted by kirisawa
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