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虐情の連鎖と涙。戦争を忌む。
戦争について語ることは,もう十分語り尽くしてしまった。限定的な段階であれば,見過ごされると,政治家たちは考えがちだが,これからの地球は、違う。戦争は廃絶されなければならない。暴力ではなく,国際協約に基づく相互間の対話こそがそれに代わるものとして確立されなければならない。若い世代を中心に地球は成熟してきている。武器を置き,いがみ合うことは辞め,互いに愛し合い,政治家の思惑と絡繰りによって妥協点を見いだすのではなく,武器そのものを廃棄することにこそ注力すべきだ。
ヒトは先ずヒト自身を愛することを学ばなければならない。そして,互いに労り合うことだ。ヒトは逆境にある同胞を見捨てたり,沈黙して不当な扱いを見過ごしたりもする。それは,飽くまで,自分に危害が及ばないようにする自己保全のためであり,危険回避のためである。しかし,それをただ肯定すれば,真の社会協約である法を否定することになる。秩序とは,多数の独善的な意志ではなく,集団全体の公的な誓いに基づくものであり,社会はその精神の発展である。確かに,群れにはボスが居り,多数を従わせる同調バイアスの負荷がかかる。そうした状況下で,たじろがず自己主張することは現実にはできないかもしれない。しかし,拒否すべきものは拒否し,自分を偽(イツワ)らずに行動することにこそ,ヒトのヒトたる所以(ユエン)であるのだ。
ヒトには喜怒哀楽という感情があり,それに伴って涙する動物である。ヒトは悲しみ,あるいは怖れ,驚愕・激怒して,又,狂喜して落涙する。そして,ヒトは人間だけでなく愛する者を失った時,落涙する。他者の死を悼むことができる動物は人間だけではないが,死という不可避的現象を理解し,墓を作るのは,おそらく,人間だけである。それらを踏まえると,ヒトは生命体として特異な存在であると言える。涙とは,真にその象徴であり,その生理的現象である。それは眼球の乾燥を防ぐために涙腺から分泌する体液のことであるが,ヒトに限って言えば,脳と視神経の近接関係から来る情動運動の連鎖的刺激が涙を分泌すると考えられ,脳内のアドレナリンとドーパミンの増加を示している。
涙は,催涙剤や玉ねぎを切った時に発生するガス状の異物の刺激によってでも分泌されるが,それは正常の機能で眼球を保護するための活動の一環である。身体的な痛みや我慢のできない仕打ちにあった時,又,他者から裏切られた時などにも多量に分泌される。涙が眼球から溢れ出し,声を上げて嗚咽することを泣くと言い,感情に歯止めがかからない状態で,脳内の思考中枢にも影響が出る。この状態の時には,テストステロンの分泌に変化が見られ,オキシトシンは減少するとの推測がある。しかし泣くことは,脳に与えられたストレスを緩和し,正常のホルモンバランスを取り戻すのに効果がある。特に感情的な涙には,脳の受けた予想外の刺激に対する常態への復帰を手助けする集中力の回復や自我の安定を取り戻す平衡作用があり,矛盾を矛盾として受容すると同時に合理的な身の置き場を模索する時間的機能が垣間見られる。
涙は,動物に共通のものではあるけれども,ヒトの涙は,喜怒哀楽の表出である。戦乱は,悲劇の涙しか残さない。ヒトが武器を捨て去るのは,まだ,はるか遠い。それは殺戮の続く限り不可能かもしれないが,きっと,ヒトはこの虐情を克服し,一つの地球という世界平和の日がいつか必ず実現する。終わりの見え無い戦乱の火は今も続くが,醜い憎しみの連鎖はこれまでにして歓びの涙の日が来ることを信じよう。