復活への階段 the stairs to resurrection その2


不毛の大統領選挙まで1カ月も無い。9月のFOMCは、議会の党派対立の余波を受けて、全くの空砲に終わり、何ら有効な手立てを講じる術もなく幕を閉じた。そこには空虚な、あからさまな、荒廃した民主主義に対する幻滅が残った。パウエル議長の、「景気回復まで金利は緩和的に維持し、経済を支える。」という言葉が繰り返され、空しく響いた。景気循環の亡霊が首を擡(モタ)げ、長期のゼロ金利がもたらす弊害の心配はないか、とか、インフレが昂進するのではないか、という懸念をちらつかせる論調も出てきた。これまでのFRBの基本姿勢である経済の復興と雇用の回復という目標の達成の手段として、恒常的になった低金利政策が適当か、ということについての懐疑論である。低金利の反動から、長期金利が急激に上昇して、株式市場の急落を招くのではないか、という、まことしやかな予想をするエコノミストも居り、余計な不安心理を掻き立てている。

マーケットの変調は主に、大統領選挙と米中関係の問題に尽きる。特に、IT企業にとって、今後の見通しがほぼ立たないのが現状で、特にアップルは、中国市場の動向と5Gアイフォンの販売が当面のカギを握る最大の懸案となっている。これはGAFAに牽引されたグロース株全体の停滞を予感させるかなり危険な兆候と言える。ITの国内関連セクターは、GAFAを除けば、ほとんどがクラウド、半導体とメモリーが占めており、疎(マバ)らに、AI・ソフトウェア、という感じであるが、国内だけで成り立つ企業だけではないと思われる。

マーケットは、今、大半がITの利食いに動いている状況で、今後の様子見と言った段階にある。

一方、年金基金など長期投資に依存する大口の機関投資家グループにとっては、このまま長期金利が上昇せず、低迷し続ければ、死活問題にもなりかねない重大事態である。しかも、ESGから除外されつつある重厚長大産業群の年金受給者は現受給者である。つまり、この受け皿となるヴァリュー株の代表である銀行・金融業界にとっては、このリセッションの機会を捉えてマーケットから資金を呼び込む絶好の機会の到来であるが、必ずしも、資金は動いていない。それは、既に、マーケットの大勢が、ディジタル社会への産業構造の転換を図ることが新たな産業社会の構築であることを誰もが認識しており、それは、今や引き返すことのできない歴史的必然であることを知っているからに他ならない。そして、それに伴う大きな変化と激流を乗り越えていくための努力が必要なことが、自明の理であることも、又、真なのである。

しかしながら、この大きな転換は一朝一夕で陽の目を見るものではない。上述したとおり旧態依然とした年金基金などの残存勢力が既得権を守旧するため、抵抗するのは必至の情勢である。国際的なエネルギー産業などは、既に、化石燃料エネルギーに見切りをつけ、再生可能エネルギー資源への転換を図っており、比較的適応は早いと考えられるし、ドイツの航空産業も、水素エンジンへの移行に既に乗り出している。問題は、日本は固(モト)より各国の、一般の工場がスマート・ファクトリーにも対応できず、まして、化石燃料に依存している中小企業が圧倒的であることである。これは、各国政府が気候変動の巨額の負荷を放置してきた結果であり、一般企業はその犠牲者であるといってもよい。だからと言って、企業側にも、認識の甘さ、油断があったことは否めない。現在の情勢を見ると、早晩、世界は、再生可能テクノロジー、再生可能エネルギーへの転換の時期を迎える。その準備を怠れば、その国は次代の発展から取り残されることになるだろう。

コロナと経済の関係も明らかに変質した。一般に、感染を恐れる意識が薄れた。感染の拡大は続いているが、最悪の被災国米国のメディアも日常ニュース扱いである。しかし、新興国は、今、コロナ・ヴィールスの影響で、未曽有の物価上昇の波に襲われている。インドの8月のCPI(消費者物価指数)は、物流の停滞が都市部への食糧供給不足を招き、1年前に比べて6.69%上昇、トルコも、通貨安が災いして、主食のパンの原料小麦を中心に輸入品全般が高騰し、8月のCPIは1年前に比して11.77%上昇した。そのしわ寄せは、低所得者層に及んでおり、その実情は深刻である。この物価上昇圧力は、他の新興国にも波及する恐れがあり、特に、輸入インフレについては、警戒を要する問題である。
2020年10月06日
Posted by kirisawa
MENU

TOP
HOME