楽園の破綻 the collapse of paradise その13


株式の時価総額の順位に変動が起きている。テスラはトヨタを抜き、エヌヴィデアはインテルを抜き、それぞれ、1位は入れ替わった。ここにはっきりと表れたのは、もはや、マーケットは、これまでの実績を直視したりしていない、ということである。トヨタは、生産台数でも、十分、単独で1位だし、インテルも、出荷台数そのものが減少したわけではない。ただ、テスラは、電気自動車の販売台数に著しい伸びがあり、エヌヴィデアは人工知能用も含め、増加の一途をたどる計算センター向けGPUの生産が追い付かない、という強力な実需に支えられている。そして、いま、マーケットを騒がせている多くの新しい銘柄、この新興2社に代表されるような活発に取引される企業のキーワードは、あのESGの“E”(エンヴィロンメントenvironment)、“環境”の一字に尽きる。これが、或る趣の主役の交代を暗示する口上の可能性もあり、その舞台の幕開けは、存外早いかもしれない。それは、例えば、こんな具合に….。

7月8日、ECBのラガルド総裁は2兆8,000億ユーロ(≒340兆円)規模の資産購入において、環境保護(green policy)を最重要視(top of agenda)する考えを明らかにした。これは、中央銀行の役割の中に、環境保護を追加することにより、債券の売却を希望する企業などに、より環境に配慮した企業経営を促す効果があり、そうした意味で積極的な先進的取り組みの一つであるといえる。

7月9日、民主党の大統領候補であるジョー・バイデンはペンシルベニア州で、「ビルド・バック・ベターBuild Back Better(より良く、建て直そう)」演説を行って、その経済政策の大略(アラマシ)を明らかにした。彼は、先ず、パンデミック・経済停滞・黒人差別を直面する3つの脅威とし、それに即応する態勢をとることを約束すると共に、自らの支持母体である労働者階級の中核である中間層に訴え、持論であるバイ・アメリカンBuy American(アメリカ製品だけを販売・購入)による製造業の再生に取り組む決意を述べ、国産の部材を使ってのインフラの改修に4,000億ドルを充てることを表明した。これは新手の雇用対策であり、かつてのニューディールの時のTVAの焼き直しのようなものであるかもしれない。一方、時代の要請である環境保護と新技術の開発にも重点を置いた取り組みが計画された。電気自動車の普及、5Gネットワークの全国整備、AI・バイオ・クリーンエネルギー関連技術への投資に、3,000億ドルの資金が割り振られたことは、その計画が重視されていることを示している。而して、インフラ整備と環境保護をテコに、総額7,000億ドル(≒75兆円)、500万人の雇用創出を目論む景気浮揚策の実現を目指すことが明確となった。

7月14日、バイデン陣営は、環境インフラ政策について具体的な行動計画を発表した。

2050年までに、経済全体で温室効果ガスの排出をネットでゼロにすべく、政権発足後、4年間で、2兆ドルを投資し、インフラの刷新やEVやクリーンテクノロジーの開発を支援する。これらの取り組みには、労働組合へ参加することも可能な数百万人の雇用が見込まれる。鉄道の動力源はクリーンエネルギーに転換される。2030年までに、10万人以上の人口を有する都市は、高品質の、温室効果ガス排出ゼロの公共交通機関を整備・運行することを目指す。又、EV普及のため、充電施設50万か所を新設する。又、自動車の買い替えに奨励金を付与する。メーカーやサプライヤーには、生産設備への投資に対して、インセンティヴ(助成金)を供与する。連邦政府も、公用車300万台をEVに切り替える。さらには、発電分野では、2035年までに、排ガスをゼロにすべく、エネルギー効率や発電源のクリーン化に関する基準を導入し、基準を満たした事業者の税を控除する。再生可能エネルギーについては、太陽光パネルを数百万枚、風力発電タービン数万基を設置する。建設部門では、商用建物400万棟のエネルギー・空調システムを刷新し、住宅200万戸の対候性向上を図る。個人住宅の環境対応に当たっては、現金給付、及び、低金利融資を提供する。など。

まだ半信半疑だが、それは動き出してしまっているのかもしれない。彼らも本気で環境保護に目覚めた?のかも。環境(green world)は確かに、経済のメインテーブルに乗ったようである。これから、どんな展開になるのか、楽しみのような、心配のような、複雑な心境ではあるが、これによって起こる、ビジネス・シフト、ライフ・シフトが僕たちを飲み込んでいくのは間違いない。アフター・コロナのデジタル社会が、グリーンな時代になろうとは、思わなかった。
2020年07月24日
Posted by kirisawa
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