自我と人格 その4


 前部帯状回皮質とフェニルエチルアミンの恋愛システムにおける協働については確固たる証左があるわけではないが、両者の各々の働きによって、そのシステムが稼働している事実は否定できない。その働きとは何か?簡略に述べる。
 前部帯状回皮質(前帯状皮質)は大脳辺縁系(第2層の脳)内に在って、それ自体の総合的な監視役monitorであると同時に可変的な調整役coordinatorであって自己完結プログラムself-contained programを動作目的とする裏方controllerという役回りである。それは前頭前皮質(第3の脳)・頭頂葉・運動系・前頭眼野に接続しており、課題の特定・動機づけ・成果(報酬)予測・意思決定・共感と情動の認知機能・実行行為の決定に直接関わるのは勿論、血圧や心拍の調節に代表される自律的機能とそれに連動する身体反応(恋愛の場合だけおこるわけではない。動悸・紅潮・発汗・吃音など。)の生成にも深く関与する。そればかりではない。刺激のトップダウンtop downとボトムアップbottom upの処理も行い、他の脳領域への制御の割り当てassignment of controlも適時適格に実行するなど、動的再配置dynamic relocationでも重要な役割を果たしている。

 次はフェニルエチルアミンである。恋愛システムsystemが対象を確定して始動すると脳下垂体からフェニルエチルアミンが分泌される。このため、”恋愛のホルモン”と呼ばれたりするが、それが分泌されるのは、恋愛に限ってのことではない。ただ、このホルモンが分泌されると、前部帯状回皮質で言及したいわゆる身体反応(動悸・紅潮など)を示す事例があり、両者に何らかの相関があることを示唆するものと推察されるが、さらに進んで、そこにはそのホルモン特有の化学的・生理的作用の存在を感じる。
 脳下垂体に関連するホルモン群(副腎皮質刺激ホルモン・甲状腺刺激ホルモン・性腺刺激ホルモン・成長ホルモン・オキシトシンなど)は一律に或る一定期間、即ち、人体の成長とその完成(成人)までの期間、言うなれば自我の独立期から人格形成期に焦点を当てて他の内分泌器官とも連携して分泌を調節しており、フェニルエチルアミンもその中の一つである。
2018年08月26日
Posted by kirisawa
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