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しかし、そこに至るまでには、個体各々の時間的経過があり、成長する環境にも影響されることから、一様に等しく論じることはできない。環境が脳の発達に密接に関係していることは疑う余地はなく、それについて考察することにも意義はあろう。
ヒトは10歳前後になると、独立した主体として振る舞おうとする。これは自我の自立であり、人格形成の始まりを告げる予兆である。この一人立ちの変化に先立ち、脳内では性ホルモンの第2層の脳の情動回路への浸入が始まり、第3層の脳との間に、感情の表出や客観性の有無などをめぐり緊張が生じる。すなわち、テストステロン(男性化ホルモン)・エストロゲン(女性化ホルモン)が側坐核に浸透すると、ドーパミンが大量に放出され、それに刺激された神経細胞の活動は促進され、扁桃体や海馬にも波及するため、前頭前皮質はこれを抑制しようとする。だが、この機構はまだ弱年のため十分に機能しない。それはまだ自我が他の自我、自分と同様に喜怒哀楽を共にする存在としての”他者”を認識し得ないことと関連している。
この脳内で起こる感情と論理のせめぎ合い(葛藤conflict)は多少の差こそあれ、どの個体にも現れるものであり、感情爆発や破壊衝動を伴うこともあるが、12,3歳から15,6歳をピークpeakに収束していく。しかし、これは終りではない。10代の自我はより柔軟にはなるが、敏感な感性や刺激に対する過敏な反応などは時に表出することがあり、周囲を驚かせることもしばしばである。
こうした不安定で揺らぎのある時期に個体が意識する問題の一つに”集団(group)の中の自分”がある。これも他者との交わり、社会関係の拡大に関係している。自分が属する集団はどういうものなのか?そもそも、集団とは序列の承認・規範の共有・利害の一致の3要件を満たすことを条件に秩序形成が行われるものであって、目的のための目的、目標のための目標はその存在理由にはならない。集団は必ずしも有益なものとは限らないが、そこでは個体の能力の向上、技能・知識など情報の提供、妥当な富の分配が期待されており、個体間の交流により、相互に肯定する感情を持ち、友情を醸成し、より他者を身近に認識できる機会が与えられる。
反面、集団と個体の間には秩序保持のため、強弱はあるが、常態的に”緊張strain”が存在する。経験が十分でない10代の自我にとって、集団の協調バイアス(cooperative bias)での暗黙の同調要求はプレッシャーpressureであり、孤立・疎外・脱落の心配から不安を抱くことも希ではない。
ここで不安について少し考えてみる。不安のシステムが起動し、いつスイッチがオンになるか、というと、それは”予測prediction”と関係している。ヒトは、常に”予測”をしている。”予測”はヒトの動作と共に時々刻々と変化していく。この情報をヒトは扁桃体(第2層の脳)で認知するが、脳幹(第1層の脳)により本能的に体の危険が感知されると、そこで不安のスイッチがオンになる。これは情動反応のもっとも原始的なものであるが、扁桃体では恐怖体験に起因する過去の情動反応の記憶についても類似した状況に再遭遇した場合、やはり、不安のスイッチがオンとなる。そして、これらは危険が解消されると同時にスイッチはオフとなる。しかし、物理的に危険であると言えない場合でも不安は生じる。”予測”は実は前頭前皮質(第3層の脳)の機能の一部である。ある行動をとった時、それが思い通りにいく(成功する)か、意に反した結果に終わる(失敗する)かは気になるところである。勿論、うまくいけば、脳の報酬系の作用によりドーパミンが放出され、快感と満足感が得られるが、うまくいかなかった場合には自己評価self assessmentも後退し、失望感に襲われることが”予測”される。このことが、不安を呼び起こし、スイッチをオンにする。これをオフにするには2つの方法しかない。成功体験を積み重ねていくか、テーマThemeを変えて再試行するしかない。
なお、不安とは、生体の恒常性を保つ役目の神経伝達物質セロトニンserotoninの分泌が減少して前頭前皮質(第3層の脳)のセロトニン神経のシナプス形成が弱まり、その機能が低下する現象であり、加えて断続的にノルアドレナリンnoradrenalineの放出が起きた場合、分泌バランスが崩れて自律神経系にも乱れが生じる。